第28回(2025年) ナショナル・ユース・シアター(イギリス)
[ 選考担当 ] クリストファー・パッテン国際顧問(イギリス)

Photo: Rich Lakos Courtesy of National Youth Theatre
ナショナル・ユース・シアター(NYT) は、1956年にロンドンで学校教師たちによって設立された、最も歴史ある若手俳優のための劇団である。ダニエル・クレイグ、ヘレン・ミレン、コリン・ファースなど、後に世界的な俳優となる多くの卒業生を輩出してきたことでも知られている。
現在の芸術監督であるポール・ローズビー氏は、元々NYTの俳優として活動していたが、BBCのキャスターなど放送業界を経て劇団に戻り、2012年からはCEOも兼任している。彼のもとで、NYTは単なる俳優養成の場から、多様な背景を持った若者が集い、演劇を通して社会変革を目指す場へと進化した。ローズビー氏は、NYTが誰にでも開かれた場所であることを重視し、「私たちがこの国の多様性を反映できていないなら、“ナショナル” (全国的)の名に値しない」と強調する。
NYTは毎年イギリス各地でオーディションを行い、5000人以上の若者に機会を提供している。初級のワークショップやマスタークラスなど11歳から30歳までを対象にしたコースがあり、通常の上限は25歳だが、障害がある場合は30歳まで受け入れる。オーディションでは、演技技術よりも「聴く力」やチームワーク、挑戦する姿勢、人間性が重視されるという。
2012年には、「NYTレップ・カンパニー」という無料の9か月集中プログラムを開始した。オーディションで選ばれた18人の若者たちは、費用をかけずに演劇学校のような体験をしながら自分の技術を磨くことに専念する。レップ11期生でスコットランド出身のフレヤ・パーディさん(23)は「NYTに参加している人の多くは俳優になり、皆、NYT出身だと履歴書に書いています。家族みたいに感じますし、経済的な支援も充実していて本当に心強い存在です」とNYTの素晴らしさを語る。
また、卒業生でプロとして活動中のセローム・アドニューさん(22)は、「NYTの良いところは全く異なる背景を持つ人々と一緒に学べることで、皆、演劇を愛し情熱をもって創作に挑戦できる」と語る。
NYTの活動は国内外にわたり、冷戦時代にはモスクワで、また中国でも複数回公演を行った。2008年には北京からロンドンへのオリンピック引き継ぎ式に参加し、「鳥の巣」スタジアムでイギリスの才能を紹介。2012年のロンドン五輪とパラリンピックでは、選手村での歓迎セレモニーを担当し、200人の劇団員が出演した。
近年ではNetflixやマイクロソフトなどと提携した特別コースを設け、俳優の育成だけでなく、脚本家や演出家、舞台美術家、衣装デザイナーなど演劇業界でのキャリア促進の機会も提供している。
2026年に創立70周年を迎えるNYTは、世界各地の若者中心の芸術団体と連携し、革新的なデジタル技術を生かしたイベントを企画し、次世代の声と新たな物語を生み出そうとしている。

Courtesy of National Youth Theatre

© The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

Courtesy of National Youth Theatre