第36回
2025年
音楽部門
András Schiff
アンドラーシュ・シフ

1953年12月21日、ハンガリー・ブダペスト生まれ
現代における最高峰のピアニストの一人。5歳からピアノを始め、ブダペストのフランツ・リスト音楽院で学び、さらにロンドンでチェンバロ奏者、ジョージ・マルコムに師事した。バッハ、モーツァルトらをレパートリーとし、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲によるリサイタルも行った。ピアニストという職業の孤独を感じながらも、それを乗り越えて音楽の可能性を広げようと、1999年に自身の室内オーケストラ「カペラ・アンドレア・バルカ」を設立。「指揮をすることで視野が広がる」とオーケストラの指揮もするなど、ピアニストにとどまらない音楽家として幅広く活躍。「音楽家であることは職業ではなく特権だ。すばらしい音楽を人々と分かち合いたい」と話す。後進の育成にも熱心に取り組んでいる。2014 年、英国よりナイト爵位を授与。夫人はヴァイオリニストの塩川悠子。
略歴
現代における最高峰のピアニストの一人。室内オーケストラを創設したり、ピアノを弾きながらオーケストラを指揮する「弾き振り」の活動に力を入れたりと、多彩な表現活動に取り組み、世界でもっとも注目される音楽家の一人である。
ブダペストの生家にアップライトピアノがあり、5歳から弾き始めたが、「12歳くらいまでは、ピアノよりサッカーが好きだった」と振り返る。その後、フランツ・リスト音楽院で本格的に学び、ロンドンではチェンバロ奏者、ジョージ・マルコムに師事。「バッハを理解する上で非常に大きな存在となった」と語る。
レパートリーは幅広く、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、バルトーク、ヤナーチェクらの鍵盤作品に深い造詣を持つ。とりわけ2004年から世界20都市以上で展開した、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲のリサイタルは、シフの芸術的信念を象徴するプロジェクト。「演奏家は“再創造者”にすぎない」と語り、常に作曲家への敬意と奉仕の精神を貫いてきた。
また、ステージでは楽譜をほとんど使わず、暗譜で演奏する。「聴衆と私の間に壁を作りたくない」という信念からであり、聴衆との真摯な対話を大切にする。
ピアニストという職業の孤独を感じながらも、それを乗り越えて音楽の可能性を広げようと、1999年に自身の室内オーケストラ「カペラ・アンドレア・バルカ」を設立した。ザルツブルクの「モーツァルト週間」においてモーツァルトのピアノ協奏曲全曲を演奏するという構想のもとに結成されたもので、音楽への深い献身と対話的なアンサンブルへの志向を体現している。
さらに、「指揮をすることで視野が広がる」とバッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンらの曲ではオーケストラの指揮もするなど、ピアニストにとどまらない音楽家として幅広く活躍している。「音楽家であることは職業ではなく特権だ」と語り、今もなおコンサートを心から楽しみ、演奏を通じて人々と感動を分かち合おうとしている。
後進の育成にも熱心に取り組み、「音楽を愛する心と、作品や作曲家に対する敬意を次の世代に伝えたい」と願い、「音楽を職業にしたいなら非常に強い“規律”、つまり練習し、学ぶために自分を奮い立たせる力が必要」と厳しい言葉も忘れない。クロンベルク・アカデミーやバレンボイム・サイード・アカデミーでピアノと室内楽を教え、2014年には若手ピアニストの支援プログラム「ビルディング・ブリッジズ」を創設した。
ヴァイオリニスト・塩川悠子との結婚を通じて日本文化、特に「間」や「沈黙」の美学に感銘を受け、それが演奏にも新たな深みをもたらしている。「私は日本という国をとてもよく知っています。本当に特別な国です」と語る。
シフの演奏は広く評価され、2006年にボンのベートーヴェン・ハウス名誉会員、2014年にはイギリスでナイトの称号を受けた。このほか、英国王立フィルハーモニー協会金賞、ドイツ連邦共和国功労勲章大功労十字星章、オーストリア共和国科学芸術名誉十字勲章一等級を授与され、ライプツィヒ市のバッハ・メダルやプラハのアントニン・ドヴォルザーク賞など、多数の栄誉に輝く。グラミー賞には8回ノミネートされ、1989年にバッハ『イギリス組曲』で第32回グラミー賞を受賞した。
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バレンボイム・サイード・アカデミー/モーツァルトホールにて(ベルリン)2025年4月
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若き日のアンドラーシュ・シフ
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バレンボイム・サイード・アカデミーでのマスタークラス 2025年4月
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コンサートで聴衆と語るシフ
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アンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカのコンサート 2025年3月
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アンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカのコンサート 2025年3月
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バレンボイム・サイード・アカデミー/モーツァルトホールにて 2025年4月