トップ 受賞者一覧 アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル

第36回

2025年

演劇・映像部門

Anne Teresa
De Keersmaeker

アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル

© Anne Van Aerschot

1960年6月11日、ベルギー・メヘレン生まれ

 ベルギー出身の振付家・ダンサー。1983年に設立した自身のダンス・カンパニー「ローザス」の芸術監督として、1980年代以降の世界のコンテンポラリー・ダンス界を牽引。モーリス・ベジャール(1993年世界文化賞受賞者)創設の舞台芸術学校「ムドラ」やニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アーツでダンスを学んだ。帰国後、スティーヴ・ライヒ(2006年世界文化賞受賞者)の音楽に基づく『ファーズ』(1982年)で注目される。音楽と動きの構造的関係を追究し、ミニマル音楽、クラシック、ブルースなど幅広い音楽と対話。歩行など日常動作を抽象化し、身体と知性を融合させる創作で知られる。代表作は『レイン』(2001年)、『EXIT ABOVE 』(2023 年)など。日本とも縁が深く、細川俊夫作曲のオペラ『班女 Hanjo』(2004年)を演出。ブリュッセルに舞台芸術学校を設立し、後進の育成にも尽力している。

略歴

 ベルギー出身の振付家・ダンサーであり、自身のカンパニー「ローザス」の芸術監督として、1980年代以降のコンテンポラリー・ダンス界を牽引してきた。
 モーリス・ベジャール(1993年世界文化賞受賞者)創設の舞台芸術学校「ムドラ」(ブリュッセル)でバレエを学び、初期の代表的な振り付け作品『アッシュ』を1980年に発表。その後、ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アーツに留学。帰国後に制作した『ファーズ』(1982年)は、スティーヴ・ライヒ(2006年世界文化賞受賞者)の音楽と緻密に連動する振り付けによって大きな注目を集めた。
 翌1983年、ラテン語でバラを意味するカンパニー「ローザス」を旗揚げ。デビュー作『ローザス・ダンス・ローザス』(1983年)では、繰り返しの動きや計算された構成を取り入れて独自のダンススタイルを確立し、1987年、ニューヨークの優れた舞台芸術に贈られるベッシー賞を受賞した。
 「歩くことは踊ること」と語り、歩行や回転といった日常的動作を振り付けの起点とし、それを極限まで抽象化することで音楽と身体の関係性を再構築してきた。「ダンスとは動きの中で思考すること」と語るように、彼女の創作は身体と知性の融合でもある。
 作品はミニマル音楽との緊密な結びつきに加え、バッハ、ベートーヴェン、ジョン・コルトレーン、インド古典音楽など、多様な音楽家たちとの“対話”を通じて、音楽の構造やリズムを可視化する試みに挑んできた。音楽は振り付けの背景として流れるだけでなく、動きを組み立てる土台そのものになっている。
 代表作の『ドラミング』(1998年)、『レイン』(2001年)などでは、音楽の構造に合わせて、ダンサーの動きが精密にデザインされている。
 2009年の『ザ・ソング』では、音楽をあえて排除し、照明、空間、身体のみでリズムと構成を生み出すという新たな挑戦を行った。その後、作品はよりミニマルなスタイルへと移行し、構造的に進化し続けている。2023年にはシェイクスピアの『テンペスト』に着想を得た『EXIT ABOVE』を発表し、ブルースのリズムとストリートダンスの動作を融合させながら、現代的に解釈し直す舞台を創り上げた。
 1989年の横浜公演以来、「ローザス」の来日公演は多数で、日本人ダンサー、池田扶美代が創設当初から参加している。「日本や日本文化にはとても深い親しみを感じている」と語るドゥ・ケースマイケルは、2004年には細川俊夫のオペラ『班女 Hanjo』を演出した。
 教育活動にも熱心に取り組み、1995年にブリュッセルに舞台芸術学校「P.A.R.T.S.」を設立。身体を使った表現力だけでなく、考える力やアイデアを持った次の世代のアーティストを育てている。2021年には自身のアーカイブの保存・研究と若手ダンサーへの奨学金支援を目的とした「ATDK財団」も設立した。
 フランス芸術文化勲章コマンドゥール(2008年)、ヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞(2015年)、オーストリア科学芸術名誉勲章(2016年)など受章(賞)歴も多数。常に知性と感情、形式と自由、音と沈黙といった対立する要素を行き来しながら、ダンスを通して新しい表現のかたちを探り続けている。

  • 『ワンス』2002年

  • 『ファーズ/ヴァイオリン・フェイズ』2011年

  • P.A.R.T.S.での授業(ブリュッセル)2025年5月

  • P.A.R.T.S.での授業(ブリュッセル)2025年5月

  • 『ブレル』のリハーサル 2025年5月

  • 『ブレル』のリハーサル 2025年5月

  • 『ブレル』のリハーサル 2025年5月

『ワンス』2002年

© Herman Sorgeloos
Courtesy of Rosas

『ファーズ/ヴァイオリン・フェイズ』2011年

© Herman Sorgeloos
Courtesy of Rosas

P.A.R.T.S.での授業(ブリュッセル)2025年5月

Photo: Shun Kambe © The Japan Art Association

P.A.R.T.S.での授業(ブリュッセル)2025年5月

Photo: Shun Kambe © The Japan Art Association

『ブレル』のリハーサル 2025年5月

ダンサー / 振付師ソラル・マリオットと
Photo: Shun Kambe © The Japan Art Association

『ブレル』のリハーサル 2025年5月

ダンサー / 振付師ソラル・マリオットと
Photo: Shun Kambe © The Japan Art Association

『ブレル』のリハーサル 2025年5月

ダンサー / 振付師ソラル・マリオットと
Photo: Shun Kambe © The Japan Art Association